天皇陛下だけがまとう“光の衣”──黄櫨染御袍とは

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はじめに

日本の国家祭祀において、天皇陛下が身にまとう黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)は、単なる正装ではありません。
それは太陽神・天照大神(あまてらすおおみかみ)から受け継がれた皇位の光、
そして天皇が神道の「祭祀王」として国と民の安寧を祈るための、宗教的象徴そのものです。

本稿では、黄櫨染御袍の歴史的背景、宗教的意味、装束文化における位置づけを、ご紹介します。


1. 黄櫨染御袍とは何か?

◆ 色の意味

  • 黄櫨染(こうろぜん)とは、ハゼノキの樹液から得た黄色の染料に、蘇芳(すおう=赤い染料)を重ね、
    酢や灰汁で媒染して生み出す独特の赭(あか)みを帯びた黄金色のこと。
  • この色は「真昼の太陽」を象徴し、
    天照大神=皇祖神(こうそしん)の光を現すものとされました。

つまり、天皇が黄櫨染御袍を身にまとうことは、 「神々の光を帯びて国を治める存在」であることを示す行為なのですかね

◆ 形と文様

  • 束帯(そくたい)と呼ばれる正式な儀式用の衣服のうち、袍(ほう=上着)部分が黄櫨染で織られます。
  • 文様には「桐」「竹」「鳳凰」「麒麟」という吉祥のシンボルが組み込まれ、四方を安泰に治める意味を表現しています。

2. なぜ天皇だけが着るのか?

◆ 禁色(きんじき)としての制定

  • 平安時代、嵯峨天皇(在位809–823年)が弘仁11年(820年)に勅(みことのり)を出し、
    「黄櫨染衣は天皇以外の着用を禁ず」と明文化しました。
  • これにより、黄櫨染は禁色──すなわち、「天皇以外は誰も着てはならない色」とされました。

◆ 天照大神との連続性

天皇は、日本神話における最高神・天照大神の直系の子孫とされています。
黄櫨染の光輝く色合いは、天照大神の太陽の力を直接的に象徴するものであり、

「現人神(あらひとがみ)」としての天皇の神聖性を可視化する役割
を持っているのでしょう。

◆ 皇位の正統性を示す

黄櫨染御袍は、単なる伝統ではありません。

  • 天皇の即位儀礼(そくいぎれい)や
  • 皇祖への奉告(ほうこく)など
    国家の根幹をなす祭祀でのみ着用されます。

そのため、黄櫨染御袍を着た天皇の姿は、

「万世一系(ばんせいいっけい)」──断絶のない皇統
を象徴する極めて重要な意味を帯びています。


3. いつ着られるのか?──祭祀と着用場面

祭祀・儀式着用装束意義
即位礼正殿の儀(即位を宣明)黄櫨染御袍皇位の継承を天下に示す
四方拝(元旦の天地四方への拝礼)黄櫨染御袍国土・民の平安を祈る
即位奉告黄櫨染御袍皇祖神・歴代天皇へ報告
大嘗祭・新嘗祭御祭服(白)穢れなき白で潔斎する(黄櫨染は着用しない)

特に重要なのは、大嘗祭(だいじょうさい)・新嘗祭(にいなめさい)だけは白い装束(御祭服)を着る点です。
これは「神事においては無垢なる白が最上とされる」という、奈良時代以来の伝統を今も守っているためです。


4. 文様にこめられた祈り

◆ 四つの吉祥(きっしょう)

黄櫨染御袍に織り出される文様は、いずれも平和と徳政を願うものです。

  • 桐(きり):皇室の象徴樹。鳳凰がとまる木。
  • 竹(たけ):まっすぐ育ち、節(ふし)を持つ、徳と節度の象徴。
  • 鳳凰(ほうおう):徳のある王が世に現れたときに姿を現す瑞鳥。
  • 麒麟(きりん):平和な時代にだけ現れる聖なる獣。

これらを組み合わせることで、

「天下泰平(てんかたいへい)」と「君主の徳治(とくち)」
を祈る意図が込められています。


5. 結論──黄櫨染御袍は「国家祭祀の可視化」

黄櫨染御袍とは──

  • 皇祖神との連続性(太陽の光の象徴)
  • 皇位の尊厳と連続(万世一系)
  • 祭祀主としての天皇の役割(国民の安寧祈願)

を一着で体現する国家的・宗教的シンボルです。
その色、その文様、その着用の場すべてに、深い意味が宿っています。

令和の御代においても、黄櫨染御袍は変わらぬ輝きを放ち、
天皇陛下が国と民の幸いを祈る存在であり続けることを静かに語り続けています。


参考資料

  • 『延喜式』巻二十三‐染色料条
  • 『日本後紀』弘仁11年条
  • 小川剛生「黄櫨染御袍の色彩と儀礼」『国学院大学紀要』第120号(2022年)
  • Genspark AI「天皇陛下がお召しになる黄櫨染御袍に関する調査報告書」
  • NHK特集「即位礼と装束」(2019年放映)


よくある質問(FAQ)

Q1. 黄櫨染御袍は、いつ使われるのですか?

→ 天皇陛下が即位されるときや、元旦の「四方拝」、皇祖神へのご報告など、国の重要な祭祀・儀式で着用されます。

Q2. なぜ天皇だけが着られるのですか?

→ 平安時代に「黄櫨染は禁色(着てはいけない色)」と定められ、太陽の象徴・神聖な色として天皇のみが身につける伝統が守られています。

Q3. 黄櫨染の文様にはどんな意味があるの?

→ 「桐」「竹」「鳳凰」「麒麟」の4つは、すべて“平和な世の中”や“徳のある治め”を象徴する吉祥模様です。


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