はじめに:「見ることのできない宝」とは何か
福井県の平泉寺白山神社で33年に一度の貴重なご開帳が執り行われました。
このような特別な機会を通じて、今回は神社の最も神聖な存在である「ご神体」について、詳しくお話しさせていただきたいと思います。
御神体とは?
御神体とは、神さまが宿る“依り代(よりしろ)”。
神霊がこの世に降りる際に、一時的に鎮まる対象物のことを指します。
その形はさまざま。
- 鏡(八咫鏡)
- 剣(草薙剣)
- 勾玉(八尺瓊勾玉)
- 山や巨木、巨岩、滝などの自然物
- 神像や霊璽(みたましろ)などの人工物
つまり御神体は、「神さまの姿」ではなく、**神さまと人間をつなぐ“しるし”**なのです。
代表的な御神体のかたち
類型 | 具体例 | 意味・由来 |
---|---|---|
鏡 | 伊勢の神宮の八咫鏡 | 天照大御神の光(太陽)の象徴 |
剣 | 熱田神宮の草薙剣 | スサノオ神話に登場する神宝 |
勾玉 | 皇居の八尺瓊勾玉 | 命の力・霊性の象徴 |
山 | 三輪山(大神神社)・富士山(浅間神社) | 神そのものとしての自然信仰 |
岩・滝 | 天岩戸・那智滝など | 神霊が宿るとされる霊地 |
神社によっては、社殿そのものが遥拝所であり、御神体は社殿の奥、あるいは神域そのものに在る場合もあります。
御神体は「なぜ見てはならない」のか?
御神体が公開されない理由は、大きく三つ。
- 神聖性の保持
神が宿る場である御神体は、穢れから守られるべき存在です。 - 神秘性の維持
神道では神は“見えない存在”として尊ばれます。
その姿を見せないことで、畏敬と信仰を保ちます。 - 祭祀秩序の維持
御神体に触れたり拝したりできるのは、厳格な儀礼を受けた神職のみ。
その秩序が神社の尊厳と伝統を支えています。
つまり、「見せない」のではなく「見てはいけない」ものなのです。
それは信仰という“見えない価値”を守るための、深い知恵と伝統です。
33年に一度──平泉寺白山神社の御開帳とは
そんな御神体が、例外的に「公開」される機会があります。
それが「御開帳(ごかいちょう)」です。
▶︎ 2025年5月、33年に一度の奇跡が訪れる
福井県・勝山市に鎮座する【平泉寺白山神社】では、
2025年5月23日〜25日、33年に一度の御開帳が行われます。
この白山信仰の聖地では、養老元年(717年)に泰澄大師が開山したと伝わります。
通常は見ることのできない御神体が、特別に御簾の奥から拝される──
それは、まさに「時を超えた祈りの交差点」です。
現代を生きる私たちへ:御神体と向き合うということ
御神体は、見るためのものではありません。
触れるためのものでもありません。
静かな社のなかで、ふと立ち止まり、
目には見えない「神さまの存在」に耳を澄ます──
それこそが、神社における最も深い“お参り”なのかもしれません。
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