【宮崎神社の宮司が解説】知られざる宮中祭祀「節折(よおり)」とは?大祓との関係と、その深き祈り

ぶろぐ

皆様、こんにちは。

今年も6月を迎え、半年間の罪を祓い清める「夏越(なごし)の大祓(おおはらえ)」の季節が近づいてまいりました。
茅の輪くぐりをされる方も多いことと存じます。

さて、この日本全体を祓い清める「大祓」と同じ日に、
皇居では、天皇陛下の、特別な祓いの儀式が千年以上も前から連綿と行われていることをご存じでしょうか?

それが「節折(よおり)」と呼ばれる宮中祭祀です。

本日は、このあまり知られていない、しかし非常に重要な意味を持つ「節折の儀」について、その歴史や作法、そして込められた祈りを皆様に分かりやすくお伝えしたいと思います。

「節折」とは何か?大祓との違い

まず「節折」とは、毎年6月と12月の晦日(みそか)に、天皇陛下ご自身の御身(おんみ)を祓い清めるために行われる儀式です。

国民や皇族のために行われる「大祓」が夕刻に斎行される前に執り行われます。
いわば、国家国民のために祈りを捧げられる天皇陛下が、その大前提として、まずご自身を誰よりも清浄にされるための儀式なのです。

大祓(おおはらえ)節折(よおり)
対象皇族、国民全体天皇陛下
目的全国民の罪を祓う天皇陛下の穢れを祓う
関係性

このように、大祓と節折は表裏一体の関係にあり、二つが揃って初めて半年の節目における祓えが完遂すると考えられています。

なぜ「節を折る」のか?特徴的な儀式の内容

「節折」という名前は、その特徴的な作法に由来します。

儀式では、掌典(しょうてん)と呼ばれる祭祀を司る役職の者たちが、細い篠竹(しのたけ)を使って、天皇陛下の御身を測ります。

【図解:節折の儀の流れ】

  1. 御贖物(おあがもの)への息吹 天皇陛下の身代わりとなる御服(ごふく)に、三度息を吹きかけ、ご自身の穢れを移されます。
  2. 御麻(おんあさ)での清め 御麻(みぬさ)と呼ばれる祓具で、御身体を右、左、右と三度撫で、穢れを移されます。
  3. 御竹(みだけ)での計測と折断 全部で九本もの篠竹を使い、御身長をはじめ、左右の肩から足元まで、両腕の長さ、腰から足元、膝から足元まで、御身体の各所を丁寧に測ります。そして、測り終えた印の部分で、その竹を「ピシッ」と音を立てて折るのです。この清らかな折る音によって、穢れが祓われるとされています。
  4. 御壺(おんつぼ)への息吹 土製の壺に向かって三度息を吹きかけ、内なる罪穢を封じ込めます。

この「竹を折る」という行為に、御身に知らず知らずのうちに付着した穢れを断ち切り、竹に移して祓い清めるという意味が込められているそうです。

さらに、この一連の儀式は二度繰り返されます。

一度目は「荒世(あらよ)の儀」

二度目は「和世(にぎよ)の儀」と呼ばれます。

「荒世の儀」は凶事をもたらす罪穢れを祓い、「和世の儀」は吉事を招くためのお祓いである、という説もあります。
天皇の御魂の荒々しい側面(荒御魂:あらみたま)と、和やかな側面(和御魂:にぎみたま)をそれぞれお祓いするとも解釈されており、自らを構成する両側面を、二度にわたって丁寧に清められるのです。

千年続く祈りの歴史

この節折の儀、その起源は平安時代の中期、9世紀後半にまで遡ります。
『延喜式』などの書物にも見られ、第62代村上天皇の御代にはすでに行われていたとされる、大変歴史の深い祭祀です。
古くは「御贖の儀(みあがのぎ)」と呼ばれていました。

応仁の乱などの戦乱の世で一時期中断を余儀なくされましたが、明治天皇の御代に復興され、以来、平成、そして令和の御代に至るまで、歴代の天皇陛下によって厳粛に受け継がれてきました。

天皇といえども、日々の暮らしの中で知らずに罪や穢れに触れてしまうかもしれない。
だからこそ、まず自らを省み、清める。その謙虚で真摯な姿勢が、この儀式を千年以上も支えてきたのでしょう。

まとめ:自らを清め、公(おおやけ)に尽くすということ

国民の安寧と幸福を祈るという、最も公的なお立場にある天皇陛下。
その祈りを捧げるにあたり、まずご自身の内面と深く向き合い、祓い清める儀式「節折」。

この儀式には、天皇がすべての国民を代表してお祓いをお受けになるという、さらに深い意味合いがあるとも言われています。

この伝統は、私たち自身の生き方にも通じるものがあるのではないでしょうか。

社会や家庭でそれぞれの役割を果たす私たちも、日々の忙しさの中で知らず識らずのうちに心に澱(おり)が溜まってしまうことがあります。
半年に一度の大祓に際し、茅の輪をくぐり、自らの半年を振り返って心身を清めることは、明日への新たな一歩を踏み出すための大切な節目です。

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